相 手:「花の中では、断然バラが好き」
あなた:「花の中では、断然バラが好きなのね」
このように、相手の言葉を伝え返すことをバックトラッキングといいます。
日本語では、「オウム返し」や「伝え返し」と呼ばれることもあります。
ゲシュタルト療法のフレデリック・パールズ
家族療法の創始者、ヴァージニア・サティア
アメリカ臨床睡眠学会初代会長のミルトン・エリクソン
バックトラッキングは、3人の卓越した心理療法家をモデリングして生まれたNLPの代表的なスキルの一つでもあります。
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相手の言ったことをオウム返しするだけ。
単純といえば、これほど単純なコミュニケーションスキルはないかもしれません。
バックトラッキングを、今初めて知ったという方でも、すぐにでも実践できそうですね。
ちょっと試してみましょう。
相手の言ったことを、そのまま伝え返してみます。
相 手:「花の中では、断然バラが好き」
あなた:「花の中では、断然バラが好きなのね」
相 手:「そうなのよ。昔は、花より団子だったんだけどね」
あなた:「昔は、花より団子だったのね」
相 手:「ええ。あの頃は、見ることよりも食べることを優先してたもん。考えてみると、年を取ったのかもしれないわ」
あなた:「あの頃は、見ることよりも食べることを優先してたのね。考えてみると、年を取ったのかもしれないのね」
いかがでしょうか。
文字だけですので想像するしかないのですが、なんだか不自然なやり取りになっていますね。
あなたが相手の立場だったら、「私の言ったことをそのまま真似してきて、いったい何なの?」と不快な思いになるのではないでしょうか。
実際に、「バックトラッキングは使えない」なんて声も耳にします。
本当のところは、どうなっているのでしょうか。
相手と関わっているときに、あなたの心に浮かぶこと。
相手への思い。
こういうものは、どんなに巧みに隠したつもりでも、やっぱり出てしまうものです。
その証拠に、昔から「目は口ほどに物を言う」といいますよね。
どんなに言葉を取り繕っても、心の思いというのは非言語(表情、声、身振り、姿勢など)に表れるのです。
それを踏まえて、先程の例を考えてみましょう。
相手の言ったことを、そのまま伝え返した上の例(花より団子だった話)です。
あなたがこの通り行うとしたら、「相手の言ったことをそのまま正確にオウム返ししなければ!」という思いでいっぱいになるのではないでしょうか。
そうなると、相手のことを「わかろう」、「もっと知りたい」、「大切にしたい」といった、相手への興味や思いが入る隙間がなくなってしまうのです。
つまり、コミュニケーションスキルであるバックトラッキングを使う自分自身に夢中になってしまい、肝心の相手のことが疎かになってしまっているわけです。
まさに、技に溺れるという状態。
これでは、相手があなたを信頼するわけありませんよね。
こうして、バックトラッキングがうざい、使えないスキルになってしまうわけです。
ちなみに、先ほどの例では、バックトラッキングの技術自体も稚拙です。
そのことについては、『3 バックトラッキングの種類』で詳しく解説いたします。
では、どうすれば効果的なバックトラッキングになるのでしょうか。
それには、バックトラッキングする自分に夢中になるのではなく、目の前の相手に意識を集めることが必要です。
「自分」ではなく、「相手」です。
その方法が、当協会オリジナルのラポールスキル。
Yメソッドです。
やり方を簡単に説明すると、主語をYouにして聴くというものです。
冒頭の例で試してみましょう。
相 手:「花の中では、断然バラが好き」
あなた:「(あなたは)花の中では、断然バラが好きなのね」
いかがでしょうか。
簡単ですね。
そして、Yメソッドは、簡単な上に、ものすごく効果のある聴き方なのです。
なぜなら、通常私たちは、「花の中では、断然バラが好き」と聴いた次の瞬間、勝手に心の中でおしゃべりが始まるからです。
こうした、心の中で勝手に起こるおしゃべりに夢中にならずに、相手に意識を集めておく。
そのためにYメソッドを活用するのです。
「(あなたは)バラが好きなのね」
Youを主語にして聴くことで、否定する必要も、反論する必要も、過度に肯定する必要もなくなります。
だって、相手のことなのですから。
相手が何を好きだろうと、何を大切にしてようと、それは相手の自由です。
あなたが大切にしていること、あなたの価値観が脅かされるわけではありません。
相手の世界は、相手のものなのですから。
これがYメソッド。
このような心構えでバックトラッキングをすることで、初めて効果的なラポールスキルとなるのです。
ここが肝心。
この心構えがあって、その上で、これから紹介する技術を磨いていけばよいわけです。
相 手:「花の中では、断然バラが好き」
あなた:「花の中では、断然バラが好きなのね」
このように、相手の伝えてきた事実をそのままバックトラッキングします。
バックトラッキングの基本となるものです。
全文をバックトラッキングする場合もあれば、下のようにキーワードを伝え返す方法もあります。
相 手:「花の中では、断然バラが好き」
あなた:「バラが好きなのね」
相 手:「今日の商談の相手は手ごわいからな。慎重に進めて行った方がいいな」
あなた:「慎重に進めて行った方がよいのですね」
相 手:「前から欲しいな欲しいなと思ってたんだけど、子猫を飼ったの」
あなた:「子猫を…」
最初の例のように、全ての会話をバックトラッキングするのは大変ですし、テンポも損なわれがちです。
ですので、ある程度の長さの話になったら、適宜キーワードをバックトラッキングしていくと、会話がスムーズになることが多いです。
その場合、相手が大切にしていること、相手の話の中心点となるキーワードをバックトラッキングしていくように心がけます。
実際の会話というのは、書き言葉のように論理的ではなく、思いついたことを思いついたままに話していくことに特徴があります。
端的にいうと、論点がぼやけ、長くなりがちです。
そこで、相手の会話をじっくりと聴いていき、
「あなたの言っていることは、つまり~ということですね」
と返していくのは、とても効果的です。
これが、要約というバックトラッキングです。
例えば、
相 手:「この間ワクチンに行ったんだけど、待たされてさぁ…しかもディズニーかってくらいの長蛇の列!もう、厳重な入国審査かって叫びたくなったよ。おまけに、4度の問診を経てのやっとの接種だったんだよ。」
あなた:「(つまり)かなり待たされたんだね」
ポイントは、「つまり」。
心の中で、「つまり」をつけると、自然と要約のバックトラッキングが出てきます。
相手の話をじっくりと聴いた後に用いると効果的ですよ。
「嬉しい」「楽しい」「悲しい」「つらい」など、相手の感情をバックトラッキングします。
感情のバックトラキングは、相手の無意識領域に影響を与え、「この人はわかってくれてる」とあなたへの信頼感を高めることにつながります。
例としては、
相 手:「これからいったいどうなっていくのかとても心配なんです」
あなた:「これからいったいどうなっていくのかとても心配なんですね」
子ども:「やったあ、夏休みの宿題が全部終わった。これで遊びにいけるぞ!」
親 :「それは嬉しいね」
妻 :「今の状況を上司にわかってもらわなければならないのだけど、まだ伝えられていなくて…」
夫 :「上司に伝える事をためらうような気持ちがあるようだね」
相手の言った言葉はもちろんのこと、相手が表現できていない感情を共感的にバックトラッキングしていくこともできます(上の親子や夫婦の例)。
ちなみに、この表現できていない感情をバックトラッキングしていく際には、相手が感じている感情とピッタリ一致する感情を伝えていくことが大切です。
「いえ、そうではなくて…」が続いてしまうと、ラポールを深めるどころか、「この人はわかっていないなあ」と不信感や違和感を抱かせてしまいますから。
とはいえ、100発100中とはいかないものです。
また、実は、それを求める必要もありません。
恐れることはないのです。
妻 :「今の状況を上司にわかってもらわなければならないのだけど、まだ伝えられていなくて…」
夫 :「上司に伝えることをためらうような気持ちがあるようだね」
妻 :「いや、ためらうというよりかは、申し訳ない気持ちかしら…上司を困らせてしまうことがわかっているだけに」
夫 :「ああ、申し訳ない気持ちなんだね」
このように、「いや、そうじゃなくて」のあとが大切です。
この場合、妻は「申し訳ない気持ちかしら」と話しています。
この、「いや、ためらうといよりかは…」のあとに続く話について、
(あなたは)~なんだね
と、Yメソッドを意識しながらバックトラッキングを続けて行けばよいのです。
あなたの「ためらうような気持ち」というバックトラッキングが外れたおかげで、むしろ妻に「ためらうというよりかは、むしろ私は申し訳ない気持ちなのだ」と、内面が明確になることが起こっているのです。
そのことに、あなたは引き続き、寄り添っていけばよいわけです。
(あなたは)申し訳ない気持ちなんだね
と。
つまり、相手のNoをそのままバックトラッキングしていけばよいのです。
私たちはどうしても、「いや」とか「違う」などと言われると、反論したくなるものです。
ですが、それではラポールは深まりません。
くれぐれも、「いや。ためらっているように見えるよ」などと、対決しないようにしましょう。
「むしろ~じゃないかな」といったあなたの反論や指摘は、ラポールが深まらないと受け容れてはもらえません。
逆にいえば、ラポールが深まると、相手にあなたの思いを受け入れてもらえるようになるということです。
バックトラッキングなどコミュニケーションの基本スキルや心構えについて実践的に学びたい方はこちらをご覧ください。
コミュニケーションスキルは学ぶところが入り口。
そのあとの、実践が欠かせません。
その実践ですが、いきなり難しさを感じている相手に用いるのは感心しません。
練習が必要です。
では、どのような相手に用いて、実践を積めばよいのでしょうか。
一番よいのは、家族、友だちなど、あなたが気の許せる相手です。
なぜなら、あなた自身リラックスして臨めますから。
そして、実践がうまくいかないときでも、関係性が破綻する心配がありません。
むしろ、どんな気持ちがしたかなど聞いていくことで、バックトラッキングをより効果的に行うための情報を手に入れることもできるでしょう。
また、副次的な効果もあります。
それは、身近な人との関係性がますます深まること。
もしかすると、こちらの方がより大切なことかもしれませんね。
バックトラッキングがうまく実践できているかどうか。
それを知るのは簡単です。
あなたがバックトラッキングをしたとき、
このように相手から「Yes」の返事をもらえれば、バックトラッキングがうまくできているということです。
実践を積んで、会話の中でたくさんの「Yes」をもらいましょう。
相 手:「昨日、夫とイタリアンに行ったらすっごく濃厚なティラミスが出たの。あんなの食べたことがない!」
このように相手が話しかけてきたら、どのように応じればよいのでしょうか。
あなた:「濃厚なティラミスが出たのね。食べたことがないような」
そうです。
こんなふうにバックトラッキングすればよいのですね。
よくできました。
そして、ちょっと想像してみてください。
相 手:「昨日、夫とイタリアンに行ったらすっごく濃厚なティラミスが出たの。あんなの食べたことがない!」
これが実際の会話だとすると、相手の話を聴いた瞬間、あなたにどのようなことが起こりますか?
「えっ!? どこのイタリアンに行ったの?」
「食べたことがないって、どんなティラミスなの?」
といった疑問がわいてきませんか。
バックトラッキングを意識していなかったら、相手に質問しているかもしれませんね。
あるいは、
「いいなあ、ご主人とイタリアンかぁ。うちなんて…」
と暗く沈んだ気持ちになったり、場合によっては嫉妬心が起きるかもしれませんね。
あるいは、頭の中がおいしそうなティラミスで占領されている方もいるでしょう。
そこから、自分の食べたい料理の妄想が広がったり…
このように、バックトラッキングしながら自分の心の中で起こっていることに少し意識を向けてみる。
いろいろなご自身に気づかれることでしょう。
そもそも、なぜバックトラッキングを行うのか。
それは、相手との関係性、ラポールを深めるためです。
ですから、相手の心の動きに目を向けていく必要があります。
でも、相手の心は見えない。
そう感じていらっしゃいますか。
本当にそうでしょうか?
そうですね。
たとえ言葉にしなくても、心は非言語に表れるのです。
ですから、会話中の相手の表情、声の調子、身振りや姿勢。
相手の非言語に意識を向けていきましょう。
だんだんと、あるいはある段階から突然、相手の非言語に変化が起こるでしょう。
それが、ラポールが深まっている証です。
私たちは会話中に、話の内容、つまり言語に意識を取られがちです。
ですから、常に相手の非言語に意識を向ける。
そんな習慣を養っていきましょう。
これこそが、実践なわけです。
NLPの万能コミュニケーションスキルであるバックトラッキングについてご紹介しました。
コミュニケーションスキルを学ぶメリットとして、学んだその場から実践できるということが挙げられます。
人間、一人では生きていけません。
日々、誰かと関わりながら生きているわけです。
そして、それが一生続く。
だからこそ、目の前にいる相手と無自覚に関わるのでなく、意識的に関わっていくことが大切です。
その実践を積み重ねる人としない人では、半年後、5年後、30年後…
大きな差が生まれることでしょう。
一生続く人との関わり
コミュニケーション
あなたはどのように実践していきますか。
執筆者:日本実践コミュニケーション心理学協会理事 高島昌彦
教育学部にて自閉症を中心とする発達障害を専門に学び、大学卒業後は、国公立の特別支援学校教員として14年間勤務。
在職中に人間関係のストレスからうつ病を発症し、退職。
同じように苦しんでいる人の手助けをすべく、心理カウンセラーとして独立。
それと共に、自らうつ病を克服した際に用いた心理学、コミュニケーション学を応用し、独自の「必ず役に立つ、体感できる講座」を体系化する。
また、カウンセリング技術研修では、自らの経験から「苦しんでいる人が本当に必要としていること」を第一に、人の心の仕組みの深い理解、プロとしてあるべき意識の持ち方、そして必要不可欠な技術が網羅された、熱い中にも人間味のある講座を展開。
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【札幌】11.17(日)
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