さて、このミラーリング。
一般的には、ラポール(信頼関係)を築く目的で使うといわれています。
では、本当に、ミラーリングでラポールは深まるのでしょうか?
こんな場面を想像してみましょう。
あなたは車のセールスです。
態度の横柄な客があなたの前にドカッと座り、足を組む。
あなたを見下すように顎を突き上げ、まさに上から目線で、
「あの車、いくら?」
と尋ねてくる。
さあ、お客様です。
ラポールを築くために、ミラーリングします!
あなたも横柄な態度で座り、足を組み、相手を見下すように顎を突き上げ、まさに上から目線で答えましょう。
「あの車の値段は…」
いかがでしょうか。
ミラーリング、できませんよね?
もし、本当にミラーリングしたら、きっと相手は怒り出すでしょう。
信頼関係を築くどころではありません。
このように、ラポールを築く(深める)目的では、ミラーリングは使えないのです。
ですから、あなたにとって、ミラーリングが習ったけれど使えないスキルになるのも、ある意味やむを得ないといえるでしょう。
ここでは、意図的にミラーリングすることから少し離れて、ラポールの観点で考えていきましょう。
ラポールの築かれた人たち。
息の合った、仲のよさそうな人たち。
街に出て、観察してみるのもよいです。
ラポールのとれている人たちは、不思議なことに姿勢やしぐさが似てくるものです。
歩いている足元を見ると、一歩一歩のステップ、そのタイミングがぴったり一致していることに気づくでしょう(これはぜひ観察してみてください。びっくりされることと思います)。
ラポールが深まると、不思議なことに、呼吸までがぴったりと一致するのです!
さて、そんなラポールの築かれている人たち。
鏡映しでしぐさを真似たり、一歩一歩のステップを合わせたり、呼吸を合わせたり…
意図的にミラーリングをして、ラポールを築いたのでしょうか?
どうも、違いますよね?
実は、ラポールが深まると、自然とミラーリングが起こる。
ただ、それだけなのです。
でも、これはとっても重要なことです。
なぜなら、ミラーリングがラポールの目安になるからです。
例えば、初対面の人と会って緊張している場面。
あなたがコーヒーに手を伸ばす。
と同時に、相手もコーヒーに手を伸ばし、何とも気まずい雰囲気に。
「何か話さなくては」と、あなたが思い切って口を開いた、まさにその瞬間。
相手も話し始め、二人の言葉がかぶる。
さらに気まずい雰囲気に。
こんなご経験はありませんか?
この場面、ミラーリングが(無自覚に)起こっているのです。
そしてそれは、お互いの心の状態が合っているということです。
あなたが緊張しているなら、相手も同じように緊張しているということ。
あなたが相手に興味があるなら、相手も同じように、あなたに興味があるということです。
ここであなたが思い切って心を開いて、それでも相手とペースが合うなら、深いラポールが築かれることでしょう。
「もったいないことしたなぁ」
今になって、甘苦い思い出に浸っている方もいるかもしれませんね。
ここまで見てきた通り、実は、お互いの心の状態が合ってくると、自然と身体の状態も合ってくるのです。
そして、その逆もまた真なり。
身体の状態を合わせると、自然と心の状態も合ってくる。
つまり、ミラーリングをすると、相手の心の状態が、自分の心に映し出されるのです。
ミラーリングにせよマッチングにせよ、相手と寸分たがわぬ姿勢になることが大切です。
姿勢だけではありません。
力の入り具合やバランスなど、外見だけでなく、身体の中の感覚も合わせていきます。
当協会の実践コミュニケーション1級認定講座では、
の3人一組でミラーリングのワークを行います。
観察者が、モデルとミラーリングする人の双方を見て、ぴったりと一致するように、「もう少し右肩を下げて」等と具体的に指示して、ミラーリングを完成させていきます。
やむを得ず、一人でミラーリングの練習をする場合は、動画や写真など自撮りできる機器があると便利かもしれません。
第三者の視点で見て、寸分たがわぬ身体の状態になることが大切です。
さて、次の手紙をご覧ください。
どのような気持ちになるでしょうか?
『そんなあなたがとても好き』
鼻ペチャの私の鼻を、
「上を向いてて可愛いよ」って。
大根足の私に、
「モデルじゃないんだから」って。
車をぶつけたら、
「疲れてたんだなあ」って言ってくれた。
そんなあなたに、
お義母さんの悪口を言ったらたたかれた。
とても好きです。
出典:人生最高のラブレター(清流出版)
いかがでしょうか。
あたたかな、明るい気持ちになったことと思います。
そして、ここからが本題。
そのあたたかな気持ちというのは、あなたの身体の、どこがどうなっているから、あたたかな気持ちになっているとわかるのでしょうか?
考えたこともないので、少し難しいかもしれませんね。
焦らずに、もう一度先ほどのラブレターを読みながら、じっくりとご自身の身体に意識を集めていきましょう。
もしかすると、上半身。
胸のあたりがあたたかくなっているのではないでしょうか?
胸や肩の辺りが緩んだ感覚があったり、ふつふつとあたたかいものが上がってくるような感覚のある方もいるかもしれませんね。
うきうきするように感じる方もいるかもしれません。
暖色系の色として捉えられる方もいるでしょう。
実は、私たちの感情というのは、身体感覚なのです。
ミラーリングの結果起こること。
それは、相手の感じている感情。
すなわち、相手の身体感覚があなたの身体に体現されるのです。
穏やかな感情の人をミラーリングすると、胸や肩の辺りがあたたかで、落ち着いた感覚があなたの身体に起こるでしょう。
反対に怒っている人をミラーリングすると、胸の辺りが熱くなったり、胃の方から上向きに熱いものが上がってくる感覚が起こるかもしれません。
あるいは文字通り、頭に血が上る感覚かもしれません。
感情によって、様々な身体感覚があります。
そして、ミラーリングを行うことで、相手の感情があなたの身体に直接体現される。
例えば、鐘が二つ並んでいるのをイメージするとわかりやすいかもしれません。
片方の鐘を鳴らすと、もう片方の鐘も振動します(共鳴)よね。
そのように、自分の身体に、自分の感情ではなく、相手の感情が体現される。
これが、ミラーリングの本当の使い方です。
つまり、ミラーリングは、相手の感情を知るスキルということです。
共感とは、どういうことでしょうか。
一般的には、相手の話を聴いて、相手の事情を知り、「その事情だとこんな気持ちになるだろうなあ。だって私はあのとき…」と想像していくこととされているのではないでしょうか?
でも、想像の結果、あなたに起きている感情は、あなたの感情なのです。
相手の感情ではない。
あくまでも、あなたの想像に過ぎないのです。
それに、そもそも相手が本当のことだけを、そしてすべてを話すとは限りません。
言いにくいこともあるでしょう。
何より、自分自身でも気づいていないことだってあるはずです。
ですから、いくら真剣に話を聴いて、いくら頭で考えても共感は起こりません。
共感は、頭でするものではないのです。
「じゃあ、どうすれば共感できるの?」
そう感じていますか。
それとも、
「ああ、だから…」
そう気づきましたか。
そうです。
ミラーリングです。
ミラーリングの結果、相手の感情が、あなたの身体に再現される。
二つの鐘が、共鳴し合っている状態。
それこそが、本当の共感です。
「嫌な上司がいる…」
相手から、悩みを打ち明けられたとしましょう。
きっと、あなたのことを信頼して打ち明けたのでしょうね。
さて、この打ち明け話を、頭で聴いていくとどうなるか。
「嫌な上司なんてどこにでもいるよ…」
「うちの上司の方がよっぽどひどいよ。だって…」
「えっ!? そんなひどい上司ならパワハラで訴えた方がいいんじゃない?」
このような考えが頭に浮かぶのではないでしょうか?
そして、その考えをそのまま口に出す。
あるいは、相手を否定するのは悪いから、「それはあなたの方がおかしくない?」と内心思っていても、それをおくびにも出さずに、「うん。うん。わかる」と共感しているかのように我慢して聴き続ける。
疲れてしまいます。
そして、あなたが疲れてしまうということは、相手も心からの満足は出来ない。
だから、日を改めて、また同じ話が繰り返される。
頭で聴いていくと、このようなコミュニケーションになりがちです。
もしかしたら、あなたにも心当たりがあるかもしれませんね。
「嫌な上司がいる…」
その話をする相手にミラーリングしてみる。
胸がギューッと絞めつけられる感覚。
喉もつまって、息苦しいような感覚。
このような感覚があなたの身体に起こったとします。
さて、どのような言葉をかけましょうか。
気の利いた言葉なんていりませんよ。
「それは辛いでしょ。よく耐えてるね」
その一言で十分です。
なぜなら、あなたはその言葉を心を込めて言えるから。
相手には、ちゃんと伝わります。
「ああ、わかってもらえた」と。
これが、『ねぎらい』。
相手の心を動かすコミュニケーションです。
あなたは自分を偽る必要もないし、相手も「わかってもらえた」と心から満足する。
共感力が高まることで、このようなコミュニケーションになるのです。
ミラーリングでラポールを深めるのではない。
ミラーリングは、相手の本当の気持ちを知るスキルなのだということをお伝えしました。
慣れてくると、ミラーリングしなくても、相手を見るだけで相手の感情が自分の身体に体現されるようになります。
コミュニケーションの達人は、これを行っているのです。
特殊な人だけができるのではありません。
鍛錬すれば、誰もができる共感のスキルです。
それには、地道にコツコツとミラーリングの実践をすること。
あなたもコミュニケーションの達人を目指してみませんか?
執筆者:日本実践コミュニケーション心理学協会理事 高島昌彦
教育学部にて自閉症を中心とする発達障害を専門に学び、大学卒業後は、国公立の特別支援学校教員として14年間勤務。
在職中に人間関係のストレスからうつ病を発症し、退職。
同じように苦しんでいる人の手助けをすべく、心理カウンセラーとして独立。
それと共に、自らうつ病を克服した際に用いた心理学、コミュニケーション学を応用し、独自の「必ず役に立つ、体感できる講座」を体系化する。
また、カウンセリング技術研修では、自らの経験から「苦しんでいる人が本当に必要としていること」を第一に、人の心の仕組みの深い理解、プロとしてあるべき意識の持ち方、そして必要不可欠な技術が網羅された、熱い中にも人間味のある講座を展開。
その人柄と他に例を見ない内容から、日本各地で絶大な人気を誇る。
日本実践コミュニケーション心理学協会では、心やコミュニケーションに特化した「実践コミュニケーション1級認定講座」を、札幌・函館の全道2会場で開催しています。
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【青森】 9.21(土)
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【秋田】 9.23(月・祝)
【札幌】10. 6(日)満席
【札幌】11.17(日)
【函館】 2. 9(日)
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【東京】 2025年1~4月
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