エンハンシング効果
ダメな子ども・部下の褒め方・関わり方

JPCPA理事
高島 昌彦
 

2021/9/15


JPCPA専属トレーナーの高島昌彦です。
 

「いったい、いつになったら勉強するの?」

コロナで外出しにくいということもあり、こんな嘆きをもつ親御さんも多いことでしょう。


「試験も近いのに、ゲームばっかり…」
「受験だってあるのに、スマホに夢中…」
「将来のことを真剣に考えているのか?」

こちらは心配して言っているのに、全然子どもは聞き入れない。

たとえ相手が子どもでも、いえ、子どもだからこそ、言うことを聞いてくれないと腹が立つものです。
我が子ともなれば、さらに強い怒りがわくのも自然なこと。

なのに子どもは、何事もなかったかのようにスマホやゲームを続ける。
ここまでくると、親の側は無力感でいっぱいになってしまいます。
 

さて、そうならないために、いったい子どもとどのように関わればよいのでしょうか?

褒めればよいのでしょうか?
それとも、叱った方がよいのでしょうか?
 

※「勉強しない子ども」を「仕事の出来ない部下」と置き換えると、ビジネスの世界でも参考になるかと思います。コミュニケーションとは、人の心と人の心の関わりですから。
 

エンハンシング効果とは?

 

  • 褒める
  • 叱る
  • 放っておく

子どもにせよ、部下にせよ、人の能力や熱意を育てるのに効果的なのは、このうちのどれでしょうか?

実は、学問の世界では、すでに答えが出ています。

エンハンシング効果(enhancing effect)

外発的モチベーション(動機づけ)によって内発的モチベーション(動機づけ)を高める心理的現象のこと。

もっと簡単にいえば、相手を褒めることで、その人のやる気を引き出すことができるということです。
 

内発的動機づけ

 

  • その人に最初から備わっている行動の動機
  • 誰に強制されるでもなく、誰に促されるわけでもなく、その人がやりたいからする行動


例えば、大好きなケーキを食べる場面。
「よーし、今日はがんばって食べるぞ!!!!」
などと気合を入れる必要はありませんよね。
だって、そもそも食べたいのだから。

このように、したいからする。
あるいは、すべきと感じるからする行為が内発的モチベーションにあたります。

趣味や娯楽、他者への善意などがそうですね。
 


 

外発的動機づけ

 

  • もともとその人に備わっていない、外部からもたらされた動機
  • インセンティブによってつくられた動機


つまり、外発的モチベーションは、

  • 「評価されたい」、「ご褒美が欲しい」といった報酬を得る
  • 「怒られたくない」、「罰を受けたくない」といった望ましくない結果を避ける

これらのために行動したい気持ちになることです。


例えば、「先生に褒められるから宿題をする」「親に叱られたくないから学校に行く」などが外発的モチベーションにあたります。

 

エンハンシング効果の例


報酬などの外発的モチベーションによって内発的モチベーションが高められる現象。
それが、エンハンシング効果です。
 

例えば、「お父さんが喜んでくれるから」という理由でサッカー教室に通うようになった子どもが、次第にサッカー自体に魅力を感じ、「もっと上手になりたい」とサッカーに打ち込むようになる。

あるいは、「お小遣いをあげるから」と言われ掃除を引き受けた子どもが、いつしか汚れが落ちる現象に快感を覚え、「他にきれいにするところないの?」と掃除に熱中することもあるでしょう。
 

このように、報酬などの外発的モチベーションを利用して、結果的に活動自体から得られる快感や満足感といった内発的モチベーションを高めること。
これが、エンハンシング効果です。
 


 

エリザベス・B・ハーロックの賞罰実験


エンハンシング効果に関する実験では、発達心理学者のエリザベス・B・ハーロックが1925年に報告した賞罰実験が有名です。

子どもたちを3つのグループに分け、グループごとに対応を変えながら、算数の試験を数回受けさせる。

A:試験のたびに褒められ続けるグループ
B:試験のたびに叱られ続けるグループ
C:何も言われないグループ


その結果、A:褒められ続けるグループは、徐々にやる気が向上し、成績が上がりました。
一方で、B:叱られ続けるグループは、初めは叱られないように努力したものの、その後も叱られ続けるとやる気が低下していきました。

この実験結果から、叱って伸ばすよりも、褒めて伸ばす方が効果があると実証されたのです。

エンハンシング効果はウソ?


この「人は褒められた方が成果が出る」というエンハンシング効果については、あなたが子ども時代、あるいは部下の立場になると、うなづける結果ではないでしょうか。

褒められた方が、断然気分がよいものです。

「もっとやりたい!」と、むしろ率先して課題に向かっていった。
そんなご経験もあるのではないでしょうか。
それに、叱られてばかりいたら、委縮してしまいます。


ですから、子どもは、褒めて育てた方がよい。
心理学的にも、あなたの経験上からも正解は導き出されているといえます。
 

ですが、親(上司)の立場に立った途端、正解が正解ではなく感じられるのではないでしょうか?
「褒めてもうまくいかない」と。
 

なぜ、褒めても効果がないのか?


「褒めてうまくいくなら、いくらでも褒めるよ。でも現実的には、褒めても成長しない。だから叱るしかないじゃないか」
そんな声が聞こえてきそうです。

実際、一所懸命に子ども(部下)を褒めるようにしている(いた)という親御さん(上司)は多いことでしょう。

それで、成果が出てるならよいのです。
ですが、褒めても褒めても勉強する(仕事ができる)ようにならない。

一体、何が起きているのでしょうか?

ダブルバインドになっている


あなたはお子さんを褒めるとき、本当に素晴らしいなあと思って褒めていますか?
もしかしたら、そんなにすごいなあとは思っていないのに、褒めた方がよいからと無理をして褒めていませんか?

「そんなことはない」という方も、冷静に振り返ってみましょう。
もしかしたら、心では思っていないのに、「褒めなきゃ」と思って、言葉だけで褒めることはないですか?
(責められているように感じる方もいるかもしれませんが、平均的にいって、誰もが「思っていなくても、口では褒める」をしているものです。例えば、他人の容姿や服装などを当人に向かって褒めるときなど、すぐに思い当たるのではないでしょうか)
 


これは大切なポイントです。
というのも、私たちの心は非言語(表情・声の調子・姿勢など)に表れるからです。

つまり、言葉では「すごいね」と褒めているのに、非言語では「たいしたことないよ」とお子さんに伝えている。
言語と非言語の不一致、ダブルバインドです。

ダブルバインドをされた方(子ども)は、戸惑ってしまいます。
本音はどっちなの?と。

そして、ダブルバインドが繰り返されることで、子どもの自己肯定感が下がるなど、心が不安定になってしまうのです。
 


 

子どもを成長させるために、頑張って褒めているのに、かえって子どもの心が不安定になってしまう。
皮肉なことに、子どものために頑張ることで、反対に親子の信頼関係を損ねているのです。
 

損をしている気持ちになる


そして、信頼関係が揺らぐのは、子どもの側ばかりではありません。

自分は頑張っているのに子どもは変わらない。
親の立場からすると、自分ばかり損をしている感覚になります。

親といっても一人の人間ですから、この状況にはいつまでも耐えられません。
自分が損をしている状況を挽回したくなります。
すると何が起きるか。
 

  1. 「誰のおかげでゲームができると思ってるんだ‼」(攻撃)
  2. 「ゲームだったら何時間でもできるのね。勉強はすぐ飽きるくせに…」(嫌味)

自分を高める(1)か、相手を下げる(2)ことで、バランスを取り戻そうとします。
 

NG①「攻撃」


『攻撃』が上手なコミュニケーションでないことは、誰にでもわかることでしょう。
自分を高めるために、自己正当化が起こります。
もっと問題なのは、それを怒りの感情を使って行うことです。

怒りの感情に任せ、ついつい言わなくてもよいことまで口から溢れてしまいます。
後で謝ったり、取り消したとしても、言われた側の耳と心には言葉は残ってしまいます。

ですから、『攻撃』はコミュニケーションとしては避けたい方法です(「本気で叱る」は、ラポールがとれていれば大切なコミュニケーション手段となります。ここで話題にしているのは、「本気で叱る」ではなく、「怒りに任せて攻撃する」ことです)。
 


 

NG②「嫌味」


一方で、『嫌味』も感心しません。
むしろ、お互いの関係性のダメージに気づきにくい分、『攻撃』よりもたちが悪いともいえるでしょう。

なぜなら、『嫌味』は、言った側にも、言われた側にも、『軽蔑』の感情を引き起こしますから。

親の側には、
「あの子はダメだ…」
「何を言っても通じない…」
「バカな子を産んでしまった…」
 

子どもの側には、
「親のくせに何もわかってない…」
「あんたの能力が無いから子どもが苦労してるんだよ…」
「子ども扱いするなら、親らしいことしろよ…」
と。
 


 


夫婦カウンセリングで有名な心理学者のジョン・ゴッドマン博士は、新婚カップルが安定した関係を続けるか、それとも破局に至るのかを、およそ90%の精度で的中させます。
それも、たったの数分で。

そして、その際の指標になることの一つが、二人のコミュニケーションに『軽蔑』が現れるかどうかなのです。
 

つまり、人間関係において、『軽蔑』というのは、非常に危険な感情といえます。
関係性を台無しにするという意味で。
 

最悪、男女なら別れればよいでしょう。
ですが、親子となるとそうもいきません。
関係を簡単に断ち切ることはできないのです。
法律的にも、社会的にも。
何より心情的に。

ですから、泥沼の親子関係にならないように、『嫌味』が口をついていないか、『軽蔑』が起きていないか、日頃から顧みる習慣をつけることが大切です。
 

褒めるところがない?


心では褒める気持ちになっていないのに、言葉では褒めている。
このようにダブルバインドになっているのが、そもそも問題なわけです。
ですから、気持ちと言葉を一致させなければなりません。
 


「そんなこと言われても、子どもを褒めよう褒めようと思っても、悪いところばかり目について、どこを褒めてよいのかわからない」
このように感じている方もいるのではないでしょうか。

そして、あなたがこのように感じているのなら、大いに希望があります。
なぜなら、悪いところが目につくということは、それだけお子さんのことをよく見ているともいえるわけですから。

さらに、悪いところというのは特徴があるということ。
つまり、個性的だということでしょう。
ですから、見方を変えれば、長所にもなるわけです。
 

例えば、勉強をせずにゲームばかりしているというのは、

  • (好きなことはやる、嫌いなことはしないという)主体性がある
  • (ゲームに没頭するという)集中力がある
  • (途中で投げ出さないという)持続する意志がある
  • (長時間続けるという)持久力がある
  • 人に迷惑をかけずに時間を過ごせる

というよさがあるともいえるわけです。

もしかしたら、屁理屈に感じるかもしれませんね。
ですが、この長所を否定することは出来ないのではないでしょうか。
だって、現にゲームを続けているという事実があるわけですから。
 

そして、このように、”勉強をせずにゲームばかりしている”子どもを、”集中力があり、主体性のある”子どもと受け取れると、親がまだできていない関わりが見えてきますね。
例えば、お子さんが好きなことをじっくり見つけるサポート。

その過程で、お子さんの不安な思いにも気づくことでしょう。
実は、子どもは親以上に自分の将来を不安に感じているものです。
「自分は将来どうなるのだろう」と。
あなたもご経験がありますよね?
 

若い女性? それとも、おばあさん?
 

さて、短所と思っていたところが、実は長所でもある。
このように、出来事の受け取り方が変わることを「リフレーミング」といいます。

リフレーミングについては、当協会の『実践コミュニケーション1級認定講座』で学びますので、興味のある方は、ぜひ受講なさってください。
 


ついでながら、「リフレーミング」は言葉がけの技術と捉えられがちですが、それは違います。

言葉がけは必ずしも必要ではありません。
それよりも、あなたの見方が変わることの方がずっと重要です。
 

想像してみてください。
子どもの悪いところばかり目についていたのが、むしろ「よさ」や「強み」として感じられる。
それだけで、ご家庭が明るいものへと変わると思いませんか。
その上で、必要があればリフレーミングしたことをお子さんに伝えれればよいのです。
 

リフレーミングで相手を変えるのではありません。
あなたが変わるのです。
そして、あなたが変わることで、相手が変わっていくのです。
 


 

「相手を変える」から、「相手が変わる」コミュニケーションへ


お子さんの叱りたくなるポイントが褒めるポイントに変わる。
それが、リフレーミングでした。

ですから、リフレーミングを学び、ダブルバインド(心では褒めていないのに、言葉では褒める)をなくしていくのは、関係性を深めるうえで、本当に大切なことです。
ぜひ、実践していきましょう。


その上で、まだ他にできることはないでしょうか。
 

もちろん、こういうからには、あるのです。
そして、それには、コミュニケーションの本質を理解することが重要です。
 

相手を動かすのは難しい

(子どもには)ゲームばかりしないで、勉強して欲しい

これは「要求」です。

もちろん、言葉や態度を丁寧にしていけば「依頼」、もっといけば「懇願」になります。
反対に、
「勉強しないと、ご飯なしよ!」
となれば、「脅し」や「強制」になります。

いずれにしても、行動するのは子ども(相手)。
つまり「要求」というのは、自分の思う通りに相手を動かそうとする行為なわけです。
 

ここでポイントとなるのは、動くか動かないかを決めるのは相手だということです。
脅したり、おだてたり、あなたが影響を与えることは出来るでしょう。
ですが、最終的に決めるのは相手。

あなたにできることは、あなたにとって望ましい行動を相手がとってくれるように工夫して伝えるところまで。
残念ながら、あなたが、相手をコントロールすることはできません。

子どもといえども、いえ、むしろ我が子だからこそ、あなたが子どもの心をコントロールすることはできないのです。
 

環境を整えるというコミュニケーション


それなら、「相手を動かす」という発想を、「相手が自分から動き出す」に変えてみるのはどうでしょうか?

「そんなの理想論だよ」という声が聞こえてきそうですね。
確かに、理想論かもしれません。
ですが、なんとか「相手を動かそう」と思って、そしてうまくいっていないのなら、試してみる価値はあるかもしれません。
 

その際にポイントとなるのが、人間の心理です。
なぜなら、心が行動を決めているわけですから(重要)。
 

具体的にいうと、「相手が自分から動き出す」をあなた自身に当てはめてみるのです。

あなたは、

「最初はそのつもりがなかったのに、そして誰かから要求されたわけでもないのに、つい自分から行動してしまった」

そんなご経験があるはずです。
思い当たりませんか?
 

例えば、お祭り。
最初はただ見ているだけのつもりだったのに、気がついたら輪に入って踊っていたり。
あるいは、スポーツ観戦。
静かに見ているだけのつもりが、いつの間にか普段なら絶対しないような大声を出して応援したり。
他にも、いつもは人といると5分と黙っていられないのに、お葬式では特に心がける訳でもなく静かに過ごしたり…。


当たり前のことですが、人は周りから影響を受けます。
周りが騒がしければ落ち着かなくなるし、静寂な環境なら、言われなくても静かになります。
優しい人たちの輪に入れば、自然と心が癒されます。
 

では、子どもに「勉強しろ」と言う代わりに、家族のみんなが勉強をしていたら?
 


残念ながら、今日やって、すぐに今日、子どもが勉強を始めることはないかもしれません。
ですが、継続することで、きっと変化が出てきます。
人の心というのは、周りから影響を受けるわけですから。
 

そして、気がつくかもしれません。
子どもに「勉強しろ」と言っているときに、周りの環境である親が何をしていたのか。
親がテレビを観たり、スマホやゲームをやってくつろいでいるのに、子どもには「勉強しろ」では、それは子どもは勉強に集中できません。

なぜなら、人の心は、周りから影響を受けるのですから。
つまり、もしかしたら、子どもは周りに影響を受けて、スマホやゲームを続けていただけかもしれないのです。

まとめ


勉強しない子どもを例に、人の心を動かすというのはどういうことなのかをお伝えしてきました。
もしかしたら、コミュニケーションの捉えが、少し変わったのではないでしょうか?
 

コミュニケーションの上達には、技術は大切です。
そして、人の心がどうなっているのか知ることは、もっと大切です。

ぜひそのような観点で、コミュニケーションの学びを続けてください。
人との関わりは、命を終えるそのときまで続くわけですから。


執筆者:日本実践コミュニケーション心理学協会理事 高島昌彦
 

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